解けない結び目に鋏を持ち出した話

いつものようにへらりと笑っただけだった。いつもならなんとも思わないその顔に無性に腹が立った。そんな顔が見たいわけじゃない。そんな風にはぐらかされるのは嫌だった。ふざけやがって。

「面倒が嫌いなんや」
「それは、前も聞いた」
「じゃあ、言わんでも分かってくれるやろ?」
「分かるかよ!」

燐が喚けば、廉造は困ったように眉を下げた。燐が怒っている理由も全部分かった上でのらりくらりと躱そうとする廉造のやり方が気に食わなかった。本音がどれかなんて気付けやしない。対峙しているのにこっちを見ていないのが嫌で、面倒だと思われているのが嫌で、それなのに燐は冷静に会話を進める方法を知らなかった。

「奥村くん、何がしたいんや」
「だから、俺は、ちゃんと話せって言ってんだろうが」
「何を?」

燐が奥歯を噛む。廉造は数秒燐を眺めた後、肩を上下した。口の中で小さく息を吐く。燐がぎらぎらと目を光らせていた。

(ほんま、怖いなあ)

「何もあらへんよ。言いたいこと。気にしすぎと違う?」

廉造がけらけらと笑った。燐が呻く。どうにも通じない押し問答に嫌気だって感じていた。でもここで止めたら、そうしたら、いつまで立ってもこのままだ。

「・・・お前、今までそうやってへらへら笑ってやり過ごしてこれたんだろうがなぁ・・・」

いっそ憎まれているのではないかと思うほど、やけに低い声が言う。

「俺は、逃がさねぇぞ」

燐のいつになく真剣な顔とは反対に、廉造は目を丸くして数秒口をぽかんと開けて瞬きをした後、ゆっくりと顔を歪めた。ぐしゃりと寄った眉と薄く赤みが入るタレ目がちな目元。微かにわななく唇から小さく声になれない音が漏れた。同時に、燐がそっと表情を緩める。

(ああ、やっと崩れた)



title:彗星03号は落下した