なんと恥ずかしい響きだろう

あいつによく似た顔が、一度も見たことない表情をしていた。全身で表した拒絶は十分に伝わって唇を噛んで俯いた。見ていられなかった。


「なんでお前は怒らなかったんだ」

志摩はきょとんと目を瞬かせた。重苦しく吐き出した言葉で乾いた喉が少し痛かった。

「あんな風に怒ったり、怯えたり、するもんじゃないのか」
「奥村くん、嫌って欲しかったん?」
「そうじゃねぇけど、ただ、なんでか分かんなくて」


お前だってほんとは怖かったんじゃないのかと思った。真っ黒な憎悪は気持ちが悪く受け止められるようなものではなかった。俺のせいじゃないと繰り返してやり過ごそうにもいつまでも耐えられるようなものじゃなかった。ましてやこいつと同じ顔をしたあいつが、お前なんていなければよかったとか、どうしているんだとか、そんなことを言った。それが本音だったのだとしたら、いつか、離れていってしまうかもしれない。今度こそ面倒くさいからやめだなんて言われないかもしれない。そもそも、なんでお前は逃げないんだよ。

「なあ、俺が怖いか」
「うーん、そうやなぁ・・・怖いなぁ」


志摩が珍しく生真面目な顔で言った。自分の顔が強ばるのが分かった。

「でもな、怖いのは炎より奥村くんや」
「えっ」
「人の領地に無遠慮に踏み込んでは好き勝手に言うてはったやろ?図々しい人やと思っとった、けどまぁ、そのおかげで今こうしていられるんやけどな。だからそれはええんや。あ、ほんま、あん時は怖かったんよ。どっか行ってくれへんかと思ったわ。・・・それに比べたら炎なんて、なぁ。奥村くんが無茶せんかったらむしろ便利なんちゃうかなって思っとるわ」

そう言っていつもみたいな顔で笑った。タレ目な瞳が細くなる。

「今更怖気ずかんとって。俺はまっすぐな奥村くんが苦手やけど、悪いことやないと思う」

ずるずる逃げとったの、俺の方やから、とへらりと笑う。あの時は妙にむかついたその顔になんだか無性にほっとして、それは結局、どうしてとかなんでとかいう疑問の答えにはなり得なかったけど、許されたような気がした。

「お門違いやないか。分かっとるよ。ほんとはちゃんと、みんな分かっとる。奥村くんがビビってどないするんや」
「・・・うん」
「逃がしてくれんかったくせに逃げれると思うたらあかんで」

脅しみたいな台詞が全然様になってない顔で言われて、長く息を吐いた。根に持ってんのかと少し呆れてみたけれどそれはその通りで、志摩にとっては悪夢みたいなものだったろう。むかついたんだ、仕方ないだろ。

「ええんよ。だって奥村くん、ええ人やんか」



title:彗星03号は落下した