見ないふりをしてきた。まだ大丈夫、まだ大丈夫だからと水槽にバケツで水を放り入れた。ばしゃりと勢い良く跳ねた雫が顔にかかろうともやめることはなかった。いつからだったかそれから溢れ出して水たまりを作って濁っていくのも気にもとめずにいた。足元に迫る泥水が本当は自分が追いやったものだったと知っていたはずなのに。そんなもの、ないんだよ。
しまいには一面水浸しで、水槽がうやむやになってしまった。ゴミ捨てばはどこだっただろうか。呆然と水面にしゃがみこんで波紋を見ていたら、ばしゃばしゃと踏み鳴らす靴の音が聞こえた。
「風邪引くぞ」
「・・・平気や、寒ないし」
「へぇ?」
奥村くんが口の端を上げて笑うのを見上げて、ぼんやりと思った。自分は彼のようにはなれない。何にしたって敵わない。逃げ道が必要だったのだ。追いやられて、正面切って相手に向かっていくことが出来ないから隠れてやり過ごす場所が必要だった。
「あの水槽な、壊しちまったぞ」
「え・・・なんで・・・」
「邪魔だったから」
胸をはって答える奥村くんはしかめっ面のまま得意そうだった。濁った色水が増えていく。どこからこんなに沢山湧き出てくるのかと思うほど、浸かっていく、へこたれたままの足は立ち上がろうとしなかった。
「いつまでそうしてんだよ」
「だって、もう、どこに」
どうしろと言うんだ。隠してきた感情をどこにしまえばいい。暴かれたくないんだ、分かって欲しくなんてないんだ。背負って欲しくないんだ。気にしないままでいて欲しかった。そうすればこんなに苦しむこともなかった。きっと、水槽から溢れてしまうことなんて、なかったんだ。奥村くんのせいで、要らないものが増えて、だから捨てなくちゃいけなくて、溜まっていってしまったんだ。見てよこの汚い水面をさ。
「ごちゃごちゃ言ってないで、立てよ」
腕を引かれて持ち上がった体は思いの外重くて辟易した。掴んできた手のひらは熱くて、自分の指先は冷たくて、なんだやっぱり寒かったのかななんて考えて苦笑する。なんでこう強行突破なんだろう。
「奥村くん、自分が何したか分かってるん?」
「え?助けに来た」