バンドパロ
何処を見ているのかはたまた何も見ていないのか分からない襟首を見ていた。部屋に充満するに事足りる声量で緩やかに吐き出される言葉に僅かながらに覚えがあって、視線を上げる。開閉を繰り返す顎。
それはゴミ箱行きになったフレーズだった。音を付けられることなく散った小さな言葉の寄せ集めたち。納得いかないのなら仕方ないことと異論など元から無かっただろうに、臨也は拾って繋いで纏めて歌っている。つぎはぎだらけの御粗末な、意味を持たない歌を。
「よく出来たもんでしょ」
「声以外な」
「ひどー」
ずっと歌ったままでいればいいと思うのだけれど、その役目は自分のもので目の前にいるのは弦を弾くベーシストだった。べらべらと撒き散らされるよりよほど、なんて思ってはみたものの歌に乗せて混ぜ込まれたなら鬱陶しいことこの上無いだろうと思い直す。
「まぁ、いいよ。歌うのはシズちゃんだし」
「コーラスもかき消してやろうか」
「じゃあ元から歌わないよ」
「門田に怒られるぜ」
「シズちゃんがね」
大した脅しにはなりそうもないが、ドラマーの名前を出せば少しだけ緩くなるのを知っている。あいつ、お前に甘いもんなぁ。
「こんなとこにいて大丈夫?歌詞はちゃんと覚えたかい?」
「手前こそ」
「一緒にしないでよ当然でしょ」
扉を隔てた向こう側でドラマーとギタリストが打ち合わせをしている。前日でも高揚感は無くただひたすらに静かだった。時々ゆるりと逆撫でされて波立つ水面。ソファでドラムスティックを弄びながら臨也が言う。
「かき消していいよ」
「あ?」
「かき消してもいいから、急カーブ切るくらい声、張り上げて」
水平な目線がかち合って数秒、唇の端を吊り上げた。