変化を恐れた魚の生物進化論

額に浮かんだ汗だとか、せわしなく動く目や手の動きが妙に新鮮だった。おぼつかない口取り、要領を得ない言葉の羅列。結局何が言いたいんだってそれは最終的に一言に集約してしまう。それなのに回りくどく、だけど一生懸命に話す様は酷く不格好で思わず笑い声が漏れる。志摩が頬を赤くして喚いた。

「あ、何笑ってはるの!ちゃんと聞いてや!」
「いや、だって、ぶはっ」


志摩は憤慨したように口を震わせていた。だって、おかしいじゃないか。普段はあんなに飄々として、へらへら笑って面倒なことをやりすごそうとしているのに。目の前の志摩はまるで別人のようだった。顔が真っ赤で手をきつく握り締めていたから熱でもあるんじゃないかと思ってします。

「聞いてる。ちゃんと聞いてるから、話してくれよ」

志摩がぐっと唇に力を入れた。相変わらず肩を強ばらせたままだったから触れてみたかったけれど、きっと崩れてしまいそうで躊躇する。遮ってしまうのも勿体ないような気がしてただ黙って耳を傾けた。聞き取り辛い掠れた声で喉が乾いていく。向き合ったまま話すことなんて滅多になくて、こんな志摩だって初めて見た。どんな顔をすればいいだろう。俯きがちに口を動かす相手からはきっと見えていないんだろうけれど、笑ってしまいそうになるのを必死に堪えていた。

頬が緩くなるのをつなぎ止める。だってどうしようもなく嬉しかった。当たり前に、知らないことの方が多くて、だから教えて欲しいと思う。聞いたって大抵はぐらかされるから頭にきて、触れて欲しくないところまできっと踏み込んでしまうから怒らせたことだってあった。それでも今、目の前で、こうやって必死に言葉を吐き出しているのは、俺のためだろう。

志摩が顔を上げた。相変わらずの情けない表情で「お、奥村くん・・・?」と言う。ちゃんと聞いてるって言ったのに、何も言わなかったのがいけなかったのだろうか。眼前にある不安そうな顔を見ていたら我慢なんて出来なくなる。汗ばんだ手を掴んだ。びくりと揺らぐ肩が思いの外頼りなく見えた。大丈夫だって、そう言うより早く言葉が喉を突く。

「ごめん、なんかもう、やっぱ好きだ」



title:彗星03号は落下した