sign to you

目を閉じて、息を吸って、深く。空調が低く唸って温度が下がるに連れて体温も落ちていく。冷たい指先で瞼に触れた。親指が睫毛を掠ったところで、臨也が小さく呟いた。

「聞こえるかいシズちゃん、壊れる音がするよ」
「電波野郎」
「あっはは、酷いなぁ」

目元から頬を爪先がなぞる。綺麗に切り揃えられたそれに、抉られてしまうようで。

「聞こえるかい、何かが燃える音。ジリジリと爛れそうな熱でさ。ねぇ、どう?」
「知らねぇよ」
「図太い神経してやがるね、まったく」

臨也は皮膚から手を離して、両手を広げて笑ってみせた。

「視界に映さずに見てご覧。違和感だらけだ。これに気付かないなんて!」

目尻を赤く染め、怒ったように眉を寄せて笑った。静雄は目を閉じたまま舌打ちをした。

「シズちゃん、この音が聞こえないとは、君はなんて幸せなんだろうね」
「耳鼻科行けよ。耳鳴りだろ」

静雄が呆れたように目を開けた。寒いだけの室内で、臨也はどうしようもなく惨めだった。

「壊れるよ。不確かで、きっと君は気付かない。だってシズちゃん、鈍感で馬鹿だから」

静雄が微かに顔を顰める。それでも臨也は口を閉じることは無かった。どうしようもなかった。どうにもならなかった。一人ではどうすることも出来なかった。

「笑えない話さ。シズちゃんは気付かない。ずっとそのままそうやって生きていくんだね」
「何が、気付かねぇって?」

存外静かに響いた言葉に、今度は臨也が舌打ちをした。空気が緩く膨張する。空調の役立たず、と小さく毒づいた。

「聞こえるかい、何かが溶けていく音が。炭酸が抜けるような、そんな、間抜けな音」

ああ、腹立たしいと臨也は嘆く。演技者ぶった黒ずくめは肩を竦めて口を歪めてみせた。

「聞こえてるなら返事をしてよ。その出鱈目な力は何のためにあるっていうの」