君が知らないふりをしてくれない

真っ黒な髪の毛が眼前で揺れた。沸き立つ青い炎がゆらゆらと、突出した熱さはなく生温い温度が頬を掠めていった。それは廉造の家族を殺した凶器だ。それでも、曖昧な炎なんかよりもよほど攻撃的な鋭さが突き刺さってしまって廉造は辟易した。

「いっ・・・た、ぁ」

ぐっと押し付けられた犬歯が首元の皮膚を破き切ろうとした。一瞬の後に訪れたじんじんと痺れるような痛みに眩暈がする。何にイラついているんだろう。

「奥村くん、なぁ、おくむらくん、」
「・・・なんだよ」

ぽんぽんと弱々しく肩を叩かれて顔を上げた燐の口の端から唾液混じりに僅かな血液が滴った。廉造がそれを拭ってやりながら言う。

「いきなりなんやの?」
「お前のせいだよ」
「・・・そら、仕方あらへんなぁ」


瞬きした燐には青い炎も、長く尖った耳ももうなかった。つり上がった両目が廉造の顔をじろじろと見た後舌打ちをした。廉造は噛み付かれたところを片手で押さえて顔を顰めた。

「こらまた随分思いっきり」
「むしゃくしゃしてやりました」
「だからって噛まんでもよくない?」
「うっせぇ」
「奥村くんって時々わけわからんよね」
「お前の方がわかんねぇよ」

廉造は首をかしげて「そうかいな」と困ったように笑った。燐がピンクじみた髪の毛に手を突っ込んでぐしゃぐしゃとかき乱す。ぽかんとした顔で見上げる廉造の指の間で赤が滲んでいるのが今更ながらに申し訳なく思えた。
(噛んだのは俺だけど)

「何考えてた」
「うん?」
「お前ずっとぼーっとしてたぞ。痛いくせに」
「えっ、ほんま?」
「ずーっと」
「・・・」


廉造が硬い表情になって口を閉じた。傷口を抑えた手に力が入るのが分かった。指先が白くなっていく。燐が溜め息混じりに呟いた。

「お前、いっつもそうだ」



title:彗星03号は落下した
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