ひたすらに透明な君を恨んだ

*廉造が情けないとかそういう次元じゃない

肩を掴まれ悪寒がした。冷や汗が背中を伝い、全身の血が下に引っ張られるように落ちていく。唇が震えそうになるのを押し込めた。青ざめてなんて見せなかった。見えるところに汗を浮かべたりしなかった。カラカラに乾いた喉からまともな声を引っ張り出す。全身がどっと疲れていく。足に力が入らなくなる。それでも、なんでもないような顔で笑ってみせた。

「いきなりどうしたん」

ぶら下げたままだった両腕を酷く緩慢に持ち上げる。自分の両肩を掴む堅い腕に乗せて引きはがすように触れる。至近距離で舌打ちした口から尖った牙が覗いていた。窓を打つ雨音は先刻から変わらずやかましかった。妙に蒸し暑い湿気を含んだ空気が重い。苦手な雰囲気を否定するだけの余力は無かった。退けて欲しいのに指は肩に食い込んだままだ。

「放してくれへんかな、奥村くん」
「そしたらお前、逃げるだろ」
「嫌やなぁ何しはる気やの」
「話すだけだ」
「そらだいぶ、緊張しますなぁ」

青い目を見ていられなくて視線を泳がせると眉を寄せた。握った手のひらは離れてくれない。痛いと言えば放してくれるだろうか。どうやって逃げ切ろうかとそれしか考えられなくなる。どうしても気まずいままでそんな空間には居られなくて身をよじる。馬鹿みたいな圧力をかけてくるから跳ね除けようと必死で、でもそれを表に出せなくて心臓だけがばくばくと自己主張を繰り返していた。肺も喉の奥もひりついて痛い。嫌な緊張感が濁って見える。そんな真剣な顔をしないで欲しい。

「なんで逃げるんだよ」
「ええー、奥村くんから?逃げてへんよ」
「じゃあなんだよこの手は」
「怖いやん、そんな、迫られたら」
「嘘付けずっと分かりやすく避けてたくせに」
「へえ?俺奥村くんのこと避けとったんや」
「はぐらかすなよ」
「ほんとのことや。気づかんかった」

一瞬瞳が丸くなって呆れたように「はあ?」と溜め息混じりに言う。つい浮かべた苦笑に嘘はない。バレてるなんて思わなかった。避けたのもほとんど無意識だ。勘が良いなんてもんじゃない、だからこそ恐ろしいと思うのに。

嫌な汗をかいている。気を張り詰めたせいと雨の重さと。出来るならそのけたたましい音でかき消して欲しい。ビー玉みたいに綺麗なその青が発する言葉を無かったことにして欲しい。何もかもが通用しなくなって無力になってしまう前にどうか、聞いてなかったと言って走って逃げてしまいたい。

肩に食い込む指先にまた力が入った。捕まったまま動けない。抵抗を諦めかけたそのとき、窓が割れた。



title:水葬