ずかずかと遠慮なく踏み込んでこられるのは、腹が立つよりも先に困ってしまった。笑っていれば大抵のことは気にされなかった。嘘を吐けば面倒なことに関わらずにいられた。建前を使えばそれなりに上手く生きていけた。
それなのに大抵に収まらないイレギュラーがこんなところにいたなんて。柵なんてないようなものだった。線なんて簡単に踏み越えて、壁なんて倒されてしまった。しかも内側に。なんてことをしてくれるんだと憤ったところでどうにもならないことは情けないくらいに分かっていた。(だって聞く耳持たんやないの)
「奥村くん、なんでそんなに執着するんや」
「お前が嘘ばっか付いてるからだろ」
「その根拠は?」
分かるはずがなかった。だって今まで誰も何も言わなかった。良い処世術だと思っていたし面倒臭がりな自分にはぴったりだと思っていた。それなのに燐が否定を提示してからおかしくなった。そんなんじゃないと言われそんなことないと言い返しそれでいいのかと問われそれが何かも分からなくなって途方に暮れていたところにまた足音がした。これ以上近づいてどうしたいんだろう。今までの防御壁は当たり前に効かなくて、燐は易易と難題を押し付ける。
「怒ったっていいし、泣いたっていいんじゃねぇか」
「何が、」
「笑うことしかできないわけじゃないんだろ」
お前、笑うの上手いけどな。と燐が嬉しくなさそうに言う。放っておいてくれと言えたらよかった。今までそれで通してきたんだ。今までなんともなかったんだ。これからだって大丈夫なはずだ。それはなけなしの意地でもあるし何より変わるのが怖くてたまらなかった。今更燐のようにまっすぐ歩けるはずないと分かっていた。立っていたって竦む足をどう動かせと言うんだろう。上手く回らない口のせいで最後の壁も突破されそうだった。勘弁してくれ。
「嘘も建前もいらねぇ。面倒だからって言い訳して、冗談で生きてんじゃねぇよ」
「違う、そうやない、これは俺が、」
「なんだよ、言えよ。反論しろよ。嘘はお前の十八番なんだろ」
そうじゃないと喚いて、右手で前髪をぐしゃりと握った。反論なんて出来ない。分かっていた。自分に何ができて何が出来ないかなんてずっと前から分かっていた。息が詰まってそれでも奥歯を噛み締めた。呻いてしまいそうで何かが抜け落ちてしまいそうで気が抜けない緊張感に埋もれてしまいそうだ。もうずっとどれくらい押し込めていたのか覚えていない。吐き出すのは恐ろしい。自分以外の誰かに背負わせることが怖い。それでも、嘘が得意だと、言うなら、騙されてくれるだろうか。
「・・・しんどい」
「え、」
「もう、しんどい、奥村くん」
呟いてゆっくりと顔を上げる。にっと歯を見せて笑う燐がいた。
title:彗星03号は落下した